10世紀から何世紀もかけて築き上げた名声

ナーブルスソープは、パレスチナ・ウエストバンクに位置するナーブルスという町で製造されている歴史の長い石けんです。主な成分は、この地域の主要農産物である最高品質のヴァージンオリーブオイル、水、アルカリ性ナトリウムで、完成品はアイボリー色で香りはほとんどありません。
家庭用に女性の手で製造されていたのが始まりですが、10世紀には小さな石けん工場ができ始め、14世紀になると、石けん製造は、ナーブルスで更に発展を遂げ、パレスチナの主要産業になりました。

当時は、ベドウィン族(中東の砂漠に住むアラビア語を話す遊牧民の総称。特に北アフリカ・アラビア半島・エジプト・イスラエル・イラク・シリア・ヨルダンに多い)のみが、石けん製造の過程で必要不可欠な苛性ソーダを提供することができたため、ナーブルスとヘブロンでは、彼らとの取引が非常に重要でした。

 

Nablus - ナーブルス

ナーブルス(Nablus)は、パレスチナの北部に位置する町

 

 

英国のクイーン・エリザベス1世も絶賛

ナーブルスで女性たちが家庭用に製造していた小さな石けんが、15世紀から16世紀にかけて、ベドウィン族によって地中海の隅々の島まで流通し、そこから英国のクイーン・エリザベス1世までの道のりを辿りました。エリザベス女王は、この石けんを大絶賛し、その後、ヨーロッパ人女性の間に美容成分を多く含んだナーブルスソープが広まっていくのにそう長くはかかりませんでした。

 

 

イギリス政府のお墨付き

19世紀には、肥沃な三日月地帯(メソポタミア~シリア~パレスチナを結ぶ三日月形をした地帯)の石けん生産の中心となったナーブルスで石けん製造が大幅に増加しました。 1907年までに、同市の30の工場は、パレスチナの総石けん生産量の半分以上にあたる毎年約5,000トンのナーブルス石けんを生産していました。

19世紀のナーブルス

 

聖なる地の最高品質のヴァージンオリーブオイルを使った手塩にかけた石けん製造は、ナーブルスの由緒正しい伝統でした。イギリス統治時代(1920年-1949年)、イギリス政府は1934年にロンドン協会でその石けんの分析を行い、その成分が完全に天然で化学物質無添加であるというお墨付きを与えました。

 

肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)
メソポタミアからシリアに連なる三日月形の農耕地帯。
世界最古の農耕文化が起こった古代オリエント文明の中心地。

 

歴史的人物の評価

 

クイーン・エリザベス1世(Queen Elizabeth 1)

クイーン・エリザベス1世(Queen Elizabeth 1)

遊牧民族ヘドウィンによって地中海~英国まで伝わり、エリザベス女王はこの石けんを大絶賛し、その後ヨーロッパ人女性の間に広がりました。

ジョン・ボーリング(John Bowring)

ジョン・ボーリング(John Bowring)

香港総督を務めたイギリスの政治経済学者・旅行家。1830年代に、”レヴァント(東部地中海沿岸地方の歴史的な名称)で非常に重要とされている石けん”と評価しました。

ムハンマド・クルド・アリ氏(Muhammad Kurd Ali)

ムハンマド・クルド・アリ氏(Muhammad Kurd Ali)

シリア歴史研究家。1930年代には、”ナーブルスソープは他では見られないクオリティーのピュアで最も良く作られた有名な石けんだ。”と述べています。

 

 

30件あった工場がたったの2件に

ナーブルスの石けん産業は、自然災害、特にナーブルス旧市街の大部分を破壊した1927年の大地震、そして一部はイスラエルの軍事占領により、20世紀半ばに減少し始めました。第二次世界大戦中、イスラエル軍の軍事攻撃によりナーブルス歴史的地区でいくつかの石けん工場が破壊されました。現在ではたった2つの石けん工場(ナーブルス・ソープ・カンパニー社を含む)が伝統を守りながら操業し、ヨーロッパへのフェアトレード輸出を行っています。

 

Cultural Heritage Enrichment Center “CHEC”(文化遺産再生センター)の設立

2008年、最も古い旧市街ナーブルスの石けん工場”アラファト石けん工場”は、ナーブルス石けんの歴史を保護、文化継承のために多目的文化センターとしての使用に適したものに改装されました。
センターは、子供、若者、美術、建築、文化遺産の学生、特に旧市街に住む生徒のための適切なスペースを提供しています。美術や建築、文化を学ぶ学生は、ナーブルスと建築遺産の保存に関する研究に参加することができます。彼らはまた、文化活動の活性化にも参加しています。

センターは5つの部門で構成されています。
ナーブルスの伝統的な石けんの常設展示。写真は古い道具等が展示されています。
子供の視聴覚センターは、子供たちの精神的能力を発達させ、文化遺産に対する意識を高めることを目的としています。
子どもだけでなく専門家のための講義ホールからなる図書館では、地元の遺産や世界遺産を扱う資料を公開しています。
若手有望アーティストによる展示スペースを備えたギャラリー兼芸術活動室もあります。
また石けん、手織りの掛け布団、陶器のような伝統工芸のクラブ。これは、芸術創造のための道を開き、変化する市場ニーズに合うようにこれらの工芸品を開発するための道を開くでしょう。ここで販売されている製品の売り上げは、センターの文化活動費に充てられています。

このセンターは、建築家ナセール・アラファト、オーストラリア領事館、文化省文化省、ノルウェー総領事館、エルサレムのフランス総領事館、アムステルダムのプリンス・クローズ基金、アブドゥル・ハメド・シャーマン財団、アガ・カーン賞の協力により実現しました。

 

 

400年以上も続く製法

ナーブルス産オリーブオイル石けんは、オリーブオイルと塩の混合物をベースとして、少数の天然成分のみを使った手作り製法です。これは非常に繊細な行程で、レシピに沿って作ればいい、というものではありません。トゥベレ(Tbeleh)一族の何十年もの経験と知識が、石けん職人であるMojtaba Tbelehによって用いられます。混合物は火を通され、乾燥させます。その後、石けんの塊は石けん製造者のTubeiliによって整形され、特徴的な幾何学形に積み上げられます。小さめの塊は型に嵌められるか、または「NABLUS(ナーブルス)」と刻銘されます。石けんは使用に適するまでそれから更に数ヶ月乾燥されなければなりません。

純オリーブオイル石けん、または抽出オイル、蜂蜜、牛乳、死海の泥や乾燥ハーブなどを含む各種のオリーブオイル石けんが製造されています。ハーブやその他の成分はナーブルスのメディナ産で、全種が中東起源です。生粋の天然成分によって、アロマテラピー効果ももたらされます。ナーブルスソープは、使用範囲が限定されておらず、毎日の使用に理想的で、敏感肌やトラブル肌の人でも使えるというのが特徴です。

1900-1920の間に撮影された写真
石けんを積み上げて乾燥させている様子が現在にも受け継がれている。